令和7年度税制改正要望書 PR版
『税制改正要望書』を提出しました。令和6年10月21日・22日
財務省
主税局長
青木孝德 氏
公益財団法人 納税協会連合会 常任副会長 新木敏克(写真右)
公益財団法人 納税協会連合会 税制委員長 島田京平(写真左)
総務省
自治税務局長
寺﨑秀俊 氏
(政党については、議員会館を訪問し、「税制改正要望書」を提出しました。)
(国税庁については、次長を表敬訪問し、意見交換を行いました。)
納税協会の概要
〔沿 革〕
納税協会は、昭和19年(1944年)に大阪財務局管内で誕生し、それ以来今日まで、税務や税務行政の分野で幅広い活動を進めてまいりました。
大阪国税局の83税務署管内(近畿2府4県)すべてに設立され、現在では、約12万人社の会員を擁しております。
〔特 色〕
納税協会は、税に関する健全な納税者の団体として、納税道義の高揚、自主申告の推進、税務知識の普及を図るとともに、納税者と税務当局とのパイプ役として、税務行政の円滑な運営に協力しています。
会員は、管内の個人・法人をもって構成され、また、納税貯蓄組合についても、納税協会が事務局を兼ねているため、他の国税局管内における青色申告会、法人会、納税貯蓄組合の三者が一体となった組織ということができます。
〔現 況〕
1 納税協会数 83(すべて公益社団法人)
2 会 員 数 法人会員 約6万7千社、個人会員 約5万7千人
3 主な事業活動
⑴ 税法説明会・講習会の開催
⑵ 個人青色申告者の育成
⑶ 小規模事業者の記帳指導、簿記・パソコン会計・パソコン・e-Tax操作の各教室の開催
⑷ 税制改正要望書の提出
⑸ 機関誌「納税月報」(法人版・個人版)の刊行
⑹ 税務解説書などの刊行
⑺ 「税に関する論文」の募集
⑻ 租税教育活動
⑼ 経営者大型総合保障制度などの福祉制度の推進
はしがき
税金は、私たちが社会生活を営む上で、欠くことのできない役割を果たしています。
そのため、私たちは常に税金を身近な対象としてとらえ、その時々の社会や時代にふさわしい装いに改めていく必要があります。
納税協会ではこのような観点から、税金をよく知っていただくための広報活動にあわせて、税制改正問題にも積極的に取り組んでいます。
その活動として、会員の皆様方だけでなく、広く一般の声も集約し、政府や政党へ税制改正要望書を提出しています。
この冊子は、今年の要望書の内容を収めたものです。納税協会の事業活動をご理解いただく一助ともなれば幸いです。
はじめに
令和6年初めにおいて、世界経済はインフレの再燃と地政学的緊張の影響を受けつつも、主要国の経済政策による調整が続いている。欧米各国では、一部で引き締め政策の緩和が見られるが、インフレ圧力は依然として高く、特にエネルギーと食料品の価格上昇が家計に重くのしかかっている。
金融市場では米国の債務問題が依然として注目されており、各国の中央銀行は慎重な金融政策運営を迫られている。さらに、気候変動への対応やデジタル経済の進展が加速する中で、持続可能な成長とイノベーションが求められている。
一方、日本経済は、引き続き金融緩和政策が執られているほか、昨年から続いている円安傾向に伴い、輸出企業には恩恵をもたらしているものの、輸入品価格の上昇により、国民生活を圧迫している状況となっている。
また、今年に入って、株価はバブル期を超えるなど堅調に推移しているが、物価上昇率が賃金上昇率を上回り、結果として、国民の実質所得の伸び悩みが続いている。
ポストコロナの経済環境においては、個人消費と企業投資の回復が期待され、内需主導の景気回復が見込まれているが、ウクライナ戦争やイスラエル問題等の影響で、エネルギー価格の変動などの先行きが不透明な状況となっており、この影響は、特に中小企業には厳しい状況が続くと考えられる。
このような情勢の中、令和6年度当初予算は112兆5,717億円と、過去最大であった昨年度予算を2兆円下回るものの、2年連続で110兆円を超え、過去2番目の規模となった。
少子高齢化に伴い、今後も財政支出の拡大が続くと見込まれるが、財政健全化を進めることの重要性は、一段と増しており、さらに、持続可能な経済成長と社会保障の充実を両立させるためには、効率的な財政運営が求められている。
納税協会では、従来から、財政再建と安定的かつ持続的な経済成長の実現を基本認識とし、会員の多くを占める中小企業経営者及び広く納税者の声を集約してきた。
特に、中小企業は日本経済を下支えする重要な役割を果たしており、これらの企業が持続的に発展できるよう、時代の変化に対応した税制の構築が急務である。
納税協会は次の事項に重点を置いた税制改正を強く要望する。
基本要望事項
1 税・財政改革全般について | |
⑴ | 社会保障制度については、将来の大幅な支出の増加に備えるため、給付の効率化・重点化を進め、他の歳出についても効果が少ない施策の廃止や縮減を行うとともに、財政再建のための具体的な道筋を示した上で、中長期的な展望を見据えた税制を早期に構築すること。 |
⑵ | 経済拡大による税の自然増収を目指すとともに、納税者に負担増を求める場合は前広に議論を進め、納税者の勤労意欲、事業意欲、納税意欲を阻害せず、理解と納得が得られる税制とすること。 |
⑶ | 税制の基本である「公平・中立・簡素」の三原則に適合した上で、グローバル化・ボーダーレス化が一層進展する今日に対応した、「国際的に整合性」のとれた税制とすること。 |
⑷ | 社会保障と税の一体改革については、中長期的な展望を示した上で、問題を先送りすることなく、着実に実行すること。 |
2 経済活性化について |
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⑴ | 法人課税については、企業の国際競争力、技術力を高めるとともに経済全般の活性化が図れる税制とすること。 |
⑵ | 所得税や相続税などの更なる課税強化は、国内資産だけでなく有能な人材の海外流出、人的投資の意欲を削ぐこと等によって、国力の低下を招く可能性があることに十分配意すること。 |
⑶ | わが国企業数の大部分を占め、雇用の約7割を確保している中小企業は、市場の縮小など事業活動環境の悪化、新規投資や技術革新への資金や人材不足、後継者不在のまま経営者の高齢化が進んでいることから、事業を活性化させ、承継持続できる税制とすること。 |
⑷ | 東京一極集中に歯止めをかけ、地域格差の是正、過疎化対策、雇用拡大の面から、活性化が望まれる地域に企業が積極的に進出できるよう、税制面での優遇を図ること。 また、農業・漁業経営の安定・発展、林業の再生、伝統工芸を含む地場産業等の活性化に配意した税制とすること。 |
⑸ | 地方税については、税収の地域偏在を是正するためにも抜本的な改革が求められるが、あわせて、複雑化した体系の簡素化を図ること。 |
3 納税道義の高揚と税務行政について |
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⑴ | 国と地方公共団体の税務行政機関が相互に効率的な運営を図り、税務行政手続の簡素化及び納税者の事務負担の軽減*1に努めること。 |
⑵ | マイナンバー制度については、課税の公平を図るとともに電子政府の実現を見据えて、各行政機関が連携し、行政全般の適正処理と効率化及び国民の利便性の向上に資するものとすること。 また、手続の簡素化や個人情報の保護に十分配意すること。そのためにも、次期マイナンバーカードについては、国民の不安が払しょくされるよう、導入期限にとらわれることなく十分な検証と説明を行うこと。 |
⑶ | 納税者に不公平感を抱かせないために、税務行政の執行に携わる人員を確保するとともに、国際的な租税回避や富裕層の課税逃れ、消費税の不正還付等の防止、悪質な納税者及び無申告者に対する税務調査の徹底を図ること。 また、不正な申告者や無申告者に対する罰則を更に強化すること。 |
⑷ | 租税教育は、国民に必要な生涯教育の一つであることから、その対象者を小中高生はもとより大学生・社会人にまで拡充させるとともに、更なる充実を図ること。 |
⑸ | 税務関係協力団体との信頼関係の醸成と支援体制の確立に努めること。 |
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*1 国税庁のデジタル化の取組については、資料1(11・12ページ)のとおりである。
個別要望事項
Ⅰ 所 得 税 | |||||||||||
1 | 所得控除については、税と社会保障の役割を明確にし、特に基礎的な人的控除の適正化を図るとともに、次の措置を講じること。
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2 | 土地、建物等の譲渡により生じた損失については、損益通算及び繰越控除を復活させること*2*3。 | ||||||||||
3 | 不動産所得の必要経費に算入した土地等の取得のための負債の利子については、その全額を損益通算の対象*4とすること。 | ||||||||||
4 | 公的年金は雑所得から分離し、独立した所得区分を創設すること。 あわせて、物価上昇に伴い、昨今、大企業は賃上げを行っているが、公的年金は当該水準に達することはないと思料され、生活は厳しいと見込まれることからも、公的年金所得者に対する申告手続の負担軽減や課税最低限の引上げなどの見直しを図ること。 |
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5 | 譲渡所得の取得費等については、次の措置を講じること。
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6 | 特定の事業用資産の買換え特例の適用要件を緩和すること*5。 |
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*2 特定の居住用財産の譲渡損失は、損益通算及び繰越控除が認められている。
*3 平成16年度改正において、平成16年1月1日以後の土地、建物等の譲渡について、他の所得との損益通算及び繰越控除が認められなくなった。
*4 不動産所得の損失金額の計算上、土地等の取得に係る負債利子がある場合には、平成4年分以後、一定の負債利子について、損益通算に制限が設けられている。
*5 特定の事業用資産の買換え等のうち、長期保有資産の買換え特例は、機械装置が除外されている。
Ⅱ 法 人 税 | |
1 | 令和3年7月のG20では最低法人税率を15%以上とする共同声明が採択されたが、わが国の法人実効税率は依然として高いことから、法人税の基本税率を大胆に引き下げるとともに中小企業の軽減税率適用所得金額*6を大幅に引き上げること。 また、軽減税率15%を時限措置ではなく、本則化すること。 |
2 | 租税特別措置について、特例適用対象や手続等を簡素、平易なものとすること。 また、経済活性化に資する措置は、制度を拡充し、本則化すること。特に、中小企業の設備投資に対する優遇措置及び研究開発税制を更に拡充すること。 |
3 | 企業が「生産性が向上する技術投資」、「従業員のスキルや能力を向上させる教育や研修」、「従業員の働く意欲を高める賃上げ*7」を行えるよう、引き続き税制上の措置について積極的に講じるとともに、申請手続きを簡素化すること。 |
4 | 受取配当等を全額益金不算入とすること。 |
5 | 退職給与引当金及び賞与引当金の損金算入制度を復活させること*8。 |
6 | 交際費等のうち、社会通念上相当と認められる慶弔費等については、損金不算入となる交際費等の範囲から除くこと*9。 |
7 | 特定寄附金のうち、特定公益増進法人に対する寄附金等の特別損金算入限度額を引き上げること*10。 また、一般の寄附金についても、損金算入限度額を引き上げること。 |
8 | 同族会社における「みなし役員*11」及び「使用人兼務役員」の判定基準となっている持株割合による判定制度を廃止すること。 また、特定同族会社に対する留保金課税を廃止すること*12。 |
9 | 業績連動給与を含めた役員給与は、業務執行の対価であると考えられるため、一定の要件を更に緩和するなど、損金算入を認めること。 |
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*6 中小企業の軽減税率適用所得金額は、昭和56年度以降、年800万円以下に据え置かれている。
*7 賃上げ促進税制については、資料2(13・14ページ)のとおりである。
*8 平成15年以降、退職給与引当金及び賞与引当金は、損金に算入できないこととなっている。
*9 交際費等の範囲から除かれる費用には、次のようなものがある。
① 専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用
② 飲食その他これに類する行為のために要する費用で、一人当たり5,000円以下の一定の飲食費
③ カレンダー、うちわ、手帳などの物品を贈与するための費用等
*10 国等に対する寄附金及び指定寄附金は全額損金算入できる。
*11 同族会社の使用人のうち、一定の持株基準を満たし、かつ、その法人の経営に従事している者は、「みなし役員」に該当することとされている。
*12 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の「中小特定同族会社」については、留保金課税の適用対象から除外されている。
Ⅲ 減価償却関係 | |
1 | 少額減価償却資産(取得価額30万円未満の減価償却資産)については、即時償却を認めること*13。 |
2 | 減価償却資産の耐用年数を見直し、短縮化を図ること。 |
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*13 現行では、次のように区分されている。
① 取得価額10万円未満 即時償却
② 取得価額10万円以上20万円未満 3年間で一括償却
③ 取得価額30万円未満の減価償却資産は、年間300万円を限度として即時償却(青色申告要件)。
Ⅳ 相続税・贈与税 | |||||
1 | 相続税負担や後継者不在等が原因で事業承継ができず廃業・倒産する中小企業が増加している問題に対応するために、次の措置を講じること。
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2 | 相続時精算課税制度の非課税枠(2,500万円)を拡大すること。 | ||||
3 | 相続税の未成年者控除額を引き上げること。 | ||||
4 | 贈与税の基礎控除額*14(110万円)を引き上げること。 | ||||
5 | 相続税・贈与税の連帯納付義務は廃止すること。 | ||||
6 | 改正民法により、相続人以外の親族が被相続人の療養看護等を行った場合、相続人に対して金銭の支払を請求できることとされたが、当該請求により支払われた金銭については、請求権制定の趣旨に鑑み、課税上の優遇措置を講じること。 |
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*14 平成13年以降、据え置かれている。
Ⅴ 間接税等 | |||||||||
1 | 消費税
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2 | 酒税、石油関連税等 消費税との二重課税であり、抜本的な見直しを図ること。 |
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3 | 印紙税 経済取引の変化や複雑化などにより、課税の公平の観点においても問題が生じていることから、廃止すること。 |
Ⅵ 地 方 税 | |||||||||||||
1 | 住民税(道府県民税・市町村民税)
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2 | 法人事業税 外形標準課税の適用基準について資本金基準だけでなく、売上規模や従業員数等を踏まえた総合的な基準とすること。 |
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3 | 法人住民税、法人事業税 法人税、地方法人税において適用されている欠損金繰戻還付制度を、法人住民税、法人事業税においても対象とすること。 |
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4 | 固定資産税
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5 | 事業所税 床面積を課税標準とする資産割については固定資産税及び都市計画税と、また、従業者給与総額を課税標準とする従業者割については法人事業税の外形標準課税と、それぞれ類似の課税標準であり二重課税ともいえることから、廃止すること。 |
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*15 「経年減点補正率」は20%が限度となっているため、年数が経った古い家屋でも、評価額は「再構築価格」の20%の価格に据え置かれる。
Ⅶ その他 | |||||||
1 | 源泉所得税12月分の納期限については、事業者にとって年末年始を挟み事務負担が極めて大きいことから、従業員の多寡にかかわらず納期特例分*16と同様にすべて翌年1月20日とすること。 | ||||||
2 | 法人税及び消費税の確定申告書の提出期限及び納付期限を事業年度終了後、3か月以内とすること。 | ||||||
3 | 所得税、消費税の準確定申告書の提出期限を相続税の申告書の提出期限と同一にすること*17。 | ||||||
4 | 国税及び地方税の電子申告・納税について、入力項目や操作方法等の説明には極力専門的な用語は避けるとともに、初めて利用する者にも使いやすいシステムとすること。 また、システムは、年間を通して、終日利用可能とすること。 |
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5 | 移転価格税制については、国家間協議に相当の期間を要する等の課題があるが、中小企業にとっては、経済活動を萎縮させる要因となるため、相互協議の一層の迅速化と予見可能性を高めること。 | ||||||
6 | その他
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*16 給与の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者が納期の特例を選択した場合は、7月から12月までの納期限が翌年1月20日となる。
*17 現行は、準確定申告書の提出期限は、相続の開始を知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までとされ、相続税の申告書の提出期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内とされている。