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税制改正要望書

平成24年度税制改正要望書

公益財団法人納税協会連合会
(この税制改正要望は、納税協会連合会会長名で、政府・政党に提出しました。)

はじめに

我が国の経済は、世界経済の緩やかな回復に伴って、企業収益や設備投資などにおいて回復基調にあったが、本年3月11日の東日本大地震が津波、原発事故、更には風評被害と、広域にわたって甚大な人的及び物的損失をもたらし、戦後最大の危機に直面している。
この危機は日本国民が一致団結し、総力を結集することにより克服すべきものであるが、国及び地方の財政は、ますます悪化する傾向にあり、国の一般会計予算の10年分に相当する875兆円を超える膨大な長期債務*1を抱え、財政再建が喫緊の課題となっているにもかかわらず、経済活動への震災の影響、復興のために必要とされる財源の捻出など、先行きには多くの不安材料を抱え、まさに八方塞の状態にある。
また、社会面では、加速する少子高齢化、非正規社員の増加などによる所得格差の拡大、将来年金に対する不安、医療費負担の増加、社会的モラルの低下など、問題が山積している。
このように経済・財政・社会のすべての面において、危機的状態にある中、復興のための諸施策が最優先課題であることはもとより、中長期的には、国民一人ひとりの生活を向上させ、その安定的かつ持続的な成長を実現していくことが最重要課題といえるが、そのための具体的な方策や長期的な展望が示されていない。
納税協会は、こうした状況下にあっても、事業経営に日々努力し、税を最も身近に感じている納税協会会員はもとより、会員以外の納税者の切実な声を広く集約し、次の事項に重点を置いた税制改正を要望する。

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*1 債務残高の国際比較については、図表1 のとおりである。

基本要望事項

1

 税制の構築に当たっては、次の事項に配意すること。

(1) 税制の基本である「公平・中立・簡素」の三原則に適合した税制とすること。
(2) 納税者の勤労意欲、事業意欲を阻害しない税制とすること。
(3) 企業の国際競争力、技術力を高めるとともに経済全般の活性化が図れる税制とすること。
(4) 消費税率の見直しに当たっては、申告事務の簡素化にも配意すること。
(5) 震災復興のために増税が避けられないとしても、短期的でなく中長期的な視野に立脚した、税制と社会保障制度との一体的な見直しの中で検討すること。
2 我が国の食料自給率が危機的状況にあることから、農業・漁業などの振興が図れるよう税制面においても配意すること。
3 地域格差の是正、過疎化対策、雇用拡大の面から、活性化が望まれる地域に、企業が積極的に進出できるよう税制面での優遇を図ること。
4 我が国の貴重な固有文化を後世に残すため、伝統工芸品などに係る技術が途絶えることのないよう税制面においても配意すること。
5 課税の公平を図る観点から、早期に納税者番号制度*2を導入すること。
なお、導入に際しては、個人情報の保護に十分配意するとともに電子政府の実現を見据えて、各行政機関が連携し、行政全般の適正処理と効率化にも資するようなシステムを構築すること。
6 租税教育は、国民に必要な生涯教育の一つであることから、その対象者を小中高生はもとより大学生・社会人にまで拡充し、「税は公平に負担するものである。」との認識をより浸透させること。
7 納税道義の高揚と税務行政に対する信頼をより高めるため、次の事項に配意すること。
(1) 国と地方公共団体の税務行政機関が相互に効率的な運営を図り、税務行政手続の簡素化及び納税者の事務負担の軽減に努めること。
(2) 納税者に不公平感を抱かせないために、税務行政の執行に携わる人員を確保し、悪質な納税者に対する税務調査を徹底すること。
(3) 不正な申告者や悪質な滞納者に対する罰則を更に強化すること。
(4) 税務関係協力団体との信頼関係の醸成と支援体制の確立に努めること。

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*2 「番号制度」を税務面で利用する場合のイメージについては、図表2のとおり。

個別要望事項

Ⅰ 所 得 税
1 所得控除については、基礎控除額を引き上げるとともに各種所得控除*3を整理し、簡素化すること。
2 土地、建物等の譲渡により生じた損失については、損益通算及び繰越控除*4を認めること。
3 純損失の繰越控除期間については、法人に対する取扱いと同様に7年間*5とすること。
4 不動産所得の必要経費に算入した土地等の取得のための負債の利子については、その全額を損益通算*6の対象とすること。
5 所得区分*7については、経済社会の変化に対応したものに見直すこと。
6 譲渡所得の取得費については、次の措置を講ずること。
(1) 長期譲渡所得の概算取得費*8を引き上げること。
(2) 相続税を課された不動産を譲渡した場合は、相続時の評価額を取得費*9として認めること。

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*3 所得控除には、雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦(寡夫)控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除及び基礎控除の14種類がある。
*4 平成16年度の改正により、平成16年1月1日以後の土地、建物等の譲渡について、他の所得との損益通算及び繰越控除が認められなくなった。
*5 青色申告者の純損失の繰越控除期間は3年であり、白色申告者は純損失の金額のうち、(1)変動所得の金額の計算上生じた損失の金額、(2)被災事業用資産の損失の金額を3年間繰り越して控除することができる。
*6 土地等に係る負債利子によって生じた不動産所得の損失金額は、平成4年分以後、損益通算が認められていない。
*7 現行の所得区分は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得及び雑所得の10種類に区分されている。
*8 長期譲渡所得の概算取得費は、譲渡収入金額の5%相当額である。
*9 相続財産を相続税の申告期限から3年以内に譲渡した場合は、相続税額のうち、一定の額を譲渡所得の取得費に加算することができる。

Ⅱ 法 人 税
1 法人税の基本税率を引き下げるとともに中小法人の軽減税率適用所得金額*10を大幅に引き上げること。
2 交際費の損金算入限度額*11を拡大すること。
3 退職給与引当金及び賞与引当金の損金算入制度*12を復活させること。
4 中小法人の機械化及び情報化に係る投資に対する優遇策*13を更に拡充すること。
5 同族会社と非同族会社における税負担の不公平をなくすこと。
(1) 同族会社における「みなし役員*14」及び「使用人兼務役員」の判定基準となっている持株割合による判定制度を廃止すること。
(2) 留保金課税*15を廃止すること。
6 租税特別措置法は、複雑かつ多岐にわたっており、時代に即応するよう見直しを行うとともに期限延長を繰り返しているもの(例えば、中小企業の取得資産30万円未満即時償却等)については、本法に組み入れること。
7 企業会計と税務会計の同一化を可能な限り図ること。
8 寄附金の損金算入限度額*16を引き上げるとともに、指定寄附金・特定寄附金の範囲を拡大すること。
9 租特透明化法*17における中小企業者等の法人税率の特例(措置法第42条の3の2)については、法人税申告書 別表一*18などでその適用状況を把握できるので、「適用額明細書」提出義務規定から除外すること。

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*10 中小法人の軽減税率適用所得金額は、昭和56年度以降、年800万円以下に据え置かれている。なお、平成21年4月1日から平成24年3月31日までに終了する各事業年度における軽減税率適用所得金額の税率は、22%から18%に引き下げられている。法人所得課税の実効税率の国際比較については、図表3のとおり。
*11 交際費は、定額控除限度額までの金額の90%が損金算入される。なお、定額控除限度額は、資本金1億円以下の法人が年600万円、資本金1億円超の法人が0円である。また、一人当たり5,000円以下の一定の飲食費については、損金算入が認められている。
*12 平成15年以降、退職給与引当金及び賞与引当金は、損金に算入できないこととなっている。なお、退職給与引当金のこれまでの累積繰入額については、中小法人は10年、大法人は4年でそれぞれ繰り戻すこととなっている。
*13 現行の中小法人に対する優遇策については、次のようなものがある。
(1) 少額減価償却資産(30万円未満。ただし、年間取得合計金額300万円まで)の取得価額の損金算入制度。
(2) 事業基盤強化設備等を取得した場合の特別償却又は特別税額控除制度。
(3) 教育訓練費を支出した場合の特別税額控除制度 など。
*14 同族会社の使用人のうち、次の持株基準などを満たし、かつ、その法人の経営に従事している者は、「みなし役員」に該当することとされている。
(1) 株主グループを持株割合の大きいものから並べ、上位3位グループの持株割合を算定した場合に、第1順位の株主グループの持株割合が50%超であるとき、その使用人が第1順位の株主グループに属していること。
(2) その使用人(配偶者等を含む。)の持株割合が5%を超えていること。
*15 同族関係者1グループで株式等50%超保有の同族会社については、各事業年度の所得のうち一定以上の金額を社内に留保したときは、これに対して、付加的に法人税が課せられる。なお、平成19年度改正において、資本金の額又は出資金の額が1億円以下の「中小特定同族会社」については、留保金課税の適用対象から除外されている。
*16 普通法人における一般寄附金の損金算入限度額は、次の算式によって計算する。(所得金額×2.5%+期末資本金等の額×0.25%)×1/2
*17 平成22年度の改正により、「租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律(租特透明化法)」が制定され、平成23年4月1日以後終了する事業年度において法人税関係の租税特別措置を適用する場合には、「適用額明細書」を作成し、法人税申告書に添付して税務署に提出する必要がある。法人税関係特別措置に関する適用の実態把握の流れについては、図表4のとおり。
*18 当該法人税率の特例は、法人税申告書 別表一(一)の軽減税率適用所得金額(30欄)に記載することとなっている。

Ⅲ 所得税・法人税共通事項
1 即時償却できる少額減価償却資産の取得価額*19を40万円に引き上げること。
2 電話加入権*20は、固定資産に適さないものであるため、税制上、適切な措置を講じること。
3 高齢者を雇用している事業者については、税制面での優遇措置を図ること。

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*19 即時償却できる少額減価償却資産の取得価額は10万円未満(中小企業者は30万円未満、ただし、平成18年度改正において、年間300万円の限度額が設けられた。)、また、3年間で均等償却できる一括償却資産の取得価額は20万円未満である。中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入制度については、図表5のとおり。
*20 電話加入権(施設設置負担金)は、譲渡可能な権利で時間の経過によっても変化しないため、減価償却ができない無形固定資産とされている。

Ⅳ 相続税・贈与税
1 中小企業の事業承継がより円滑に行えるようにするため、相続税における納税猶予制度の各種要件*21を緩和すること。
また、取引相場のない株式の評価額を引き下げるよう、評価方法を見直すこと。
2 山林事業者の事業承継が円滑に行えるようにするため、立木の評価額を引き下げるとともに納税猶予制度を導入すること。
3 相続時精算課税制度の非課税枠*22を拡大すること。
4 贈与税の基礎控除額を引き上げること。
5 相続税・贈与税の連帯納付義務を廃止すること。

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*21 平成21年度改正において、中小企業の非上場株式等について、相続税額の80%を納税猶予する制度が創設されたが、その主な適用要件及び継続要件は次のとおりである。
(1) 被相続人及び相続人の要件
同族関係者とあわせて50%超の議決権を保有し、同族会社内で筆頭株主であること。
(2) 事業継続の要件
1.後継者が代表者であること、2.相続株式を継続保有していること、3.雇用の8割を維持していること、4.事業継続の状況を5年間報告すること。
非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度については、図表6のとおり。
*22 相続時精算課税制度の非課税枠は2,500万円である。相続時精算課税制度の概要については、図表7のとおり。

Ⅴ 間接税等
1 消費税*23
(1) 課税の公平の観点から、免税点*24の引下げを図ること。
(2) 簡易課税制度については、適用基準金額*25を引き下げること。
(3) 消費税の納税義務、簡易課税制度の適用は、当該課税期間の課税売上高で判定するように改めること。
(4) 消費税課税事業者選択(不適用)届出書及び簡易課税制度選択(不適用)届出書などの提出期限を確定申告期限と同一にすること。
2 酒税、石油関連税等
消費税との二重課税であり、抜本的な見直しを図ること。
3 印紙税
経済取引の変化や複雑化などにより、課税の公平の観点においても問題が生じていることから、廃止すること。

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*23 消費税の概要については、図表8のとおり。
*24 現行の免税点は、課税売上高1,000万円である。
*25 現行の簡易課税制度における適用基準金額は、5,000万円である。

Ⅵ 地 方 税
(1) 個人住民税の所得控除額を所得税と同一とし、簡素化を図ること。
(2) 法人市町村民税の均等割の制限税率*26を廃止し、均等割の税率を統一すること。
(3) 個人が一の道府県内の異なる市町村に住所と事務所等を有する場合、それぞれに道府県民税均等割*27が課されるのは不合理であるから、住所のみに課すこと。
2 固定資産税
(1) 税率を引き下げること。
(2) 中小企業を支援するための軽減措置を講じること。
(3) 固定資産評価額の算出方法を簡素化するとともに、特に建物については、実態に即した評価を行い、評価制度の信頼性を高めること。
また、納税者の理解を得るため、税額の算出過程を明示すること。
(4) 既存(中古)住宅を取得した場合にも、新築住宅と同様に減額の特例を適用できるように制度の拡充を図ること。
(5) 償却資産を課税対象から除くこと。
3 事業所税
事業所税は、他の税目との二重課税*28になるので、廃止すること。
4 不動産取得税
免税点*29を大幅に引き上げること。

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*26 均等割の標準税率に1.2を乗じて得た税率(制限税率)で均等割を課することができる。なお、法人道府県民税の均等割は、標準税率で統一されている。
*27 法人については、同一道府県内の異なる市町村に事務所等を有する場合であっても、一つの道府県民税均等割が課される。
*28 事業所税は、床面積を課税標準とする資産割については固定資産税及び都市計画税との二重課税になり、従業者割については法人事業税の外形標準課税との二重課税になる。
*29 不動産取得税の免税点は、土地の取得については10万円、家屋の取得のうち建築したもの1戸について23万円、その他のもの1戸について12万円である。

Ⅶ その他
1 更正の請求ができる期間を5年間に延長すること。
2 源泉所得税の納付期限については、12月分の納付期限を翌年1月20日とすること。
3 法人税、法人の消費税の確定申告書の提出期限及び納付期限を事業年度終了後、3か月以内とすること。
4 納付手続きの簡素化及び滞納の未然防止の観点から、法人についても、振替納税制度が利用できるようにすること。
5 納税環境整備の一環として、異議申立てを廃止し、審査請求に一元化すること。
また、審査請求期間*30を延長すること。
6 所得税の確定申告書の様式を更に簡素化すること。
7 所得税、消費税の準確定申告書の提出期限を相続税の申告書の提出期限*31と同一にすること。
8 二以上の都道府県又は市町村に事務所等を有する法人の住民税及び事業税は、主たる事務所等の所在地の都道府県又は市町村に一括して申告納付できるように改めること。
9 地方税の申告書及び納付書の書式を全国同一にすること。
10 国税及び地方税の電子申告については、諸手続きの簡素化及びシステムの更なる改善を図るとともに、恒久的な優遇策*32を導入すること。

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*30 現行では、税務署長の異議決定を受けた後、なお処分に不服があるときは、異議決定の通知を受けた日の翌日から1か月以内に、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができる。
*31 相続税の申告書の提出期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内となっている。一方、準確定申告書(納税者が死亡した場合の確定申告書)の提出期限は、相続の開始を知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までとなっている。
*32 平成23年度改正において、電子証明書を取得した個人が、所得税確定申告を電子申告により行った場合の特別税額控除制度の適用期限が平成24年分まで2年間延長されたが、現行の5,000円の税額控除額が平成23年分は4,000円、平成24年分は3,000円に引き下げられている。

特別要望事項

現下の我が国は、経済の低迷とこれに伴う雇用不安、そして財政再建、震災復興、電力・エネルギー、防衛、外交など、多くの問題を抱えているにもかかわらず、解決を図るべき政治指導者は旧態依然の権力争いに終始し、国家・国民のための政治がなされていない。そのため、国民の間には閉塞感が漂い、世代を問わず将来に対する不安が増大し、国民の政治に対する苛立ちや不信感は、かってないほどに高まっている。
このような事態を早期に解消し、安心して暮らせる日本の将来像と、それを実現するための財源調達の方策などを国民に明確に示した上で、税制と社会保障制度との一体改革を要望する。その結果、消費税の増税などにより、ある程度の負担が増加することになってもやむを得ないとの意見があるものの、多くの国民は、国及び地方の歳出には、まだまだ無駄があると真剣に感じている。
そこで、国及び地方は、国民の目に見える形で、無駄を排除するための徹底した行財政改革を行い、議員定数の削減にも踏み込んだ歳出の大胆な見直しをした上で、財政の基本に則り、長期的な展望に立脚した国家・国民のための税制を早期に構築することを要望する。

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