Ⅰ 経済社会の現状
住澤でございます。本日は、平成31年度税制改正についてご説明させていただきます。
はじめに、経済社会の現状についてお話しします。安倍政権発足前と現在の経済指標を比較すると、企業収益は平成30年7─9月期において20・8兆円で、過去最高の水準に達しています。雇用情勢についても、有効求人倍率が2年にわたり全都道府県で1倍を超え、雇用環境も改善していますが、一方で人手不足という問題は深刻化しています。
一般会計税収の推移を見ると、平成31年度の予算額は62・5兆円、平成2年度は60・1兆円で、60兆を超えたのは平成2年度以降初めてで、史上最高の水準に達しています。しかし、現在と平成2年度の税収構造は大きく違っており、平成2年度に最も多かったのは所得税収で26兆円でしたが、消費税率の引上げに伴い所得税の減税を進めたため、足元における所得税収は20兆円弱で、消費税率8%への引上げ後の消費税収と比べると、かなり拮抗してきています。法人税については、平成2年度は18・4兆円でしたが、現在は13兆円弱となっており、所得税・消費税と比べ、税収は徐々に低下しています。
Ⅱ 消費税率の引上げに伴う対応
平成31年(2019年)10月1日、消費税率が10%に引き上げられますが、これに合わせて軽減税率制度が始まります。軽減税率制度の対象品目は、飲食料品の譲渡と、定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞の譲渡です。飲食料品の譲渡については、酒税法に規定する酒類を除く食品表示法に規定する食品の譲渡をいい、外食等は除きます。この「外食等」は大きく二つに分けられ、一つは飲食設備のある場所において顧客に飲食させるサービス、もう一つは顧客が指定した場所で、顧客に飲食させるサービス、いわゆるケータリング・出張料理等です。
消費税率引上げによる負担増は国と地方で5・7兆円程度となります。軽減税率制度により1・1兆円程度の負担軽減となりますが、この制度の実施に伴い、その財源確保のためのたばこ税や所得税の見直しなどで0・6兆円程度の負担増、全体差し引き5・2兆円程度の負担増となります。また、幼児教育の無償化や社会保障の充実による支援での受益増が3・2兆円程度ですので、経済への影響は2兆円程度ということになります。さらに、消費税率引上げに対応した新たな対策として、キャッシュレス経済に対応したポイント還元制度や住宅ローン減税の拡充など、経済への影響を十二分に乗り越える2・3兆円程度の措置を講じていきます。
消費税率引上げに伴う価格設定については、前回の引上げ時の経験を踏まえ、税率引上げ前の需要増等に応じた値上げが妨げられないことや、税率引上げ後に禁止されない宣伝・広告のあり方等を改めて事業者に周知し、柔軟に価格設定できる環境を整備していきます。同時に、下請事業者が買いたたき等の転嫁拒否を受けることがないよう、転嫁対策を推進していきます。
続いては、住宅に係る駆け込み・反動減対策です。消費税率引上げ前後の駆け込み・反動減を抑制するため、税制・予算両面から対策を実施し、対策全体を通じて、消費税率10%引上げ後の住宅購入等にメリットが出るようにします。
税制面からの対策は、住宅ローン減税の拡充です。消費税率10%が適用される住宅取得等について、住宅ローン控除の控除期間を10年間から13年間に延長します。延長した11年目以降の3年間における控除額は、各年において建物購入価格の3分の2%又は住宅ローン年末残高の1%のいずれか少ない金額となります。
予算面からの対策は二つあります。一つは、すまい給付金の拡充です。給付額を最大30万円から最大50万円に引き上げ、給付対象者も年収510万円以下から年収775万円以下の方まで引き上げます。もう一つは、次世代住宅ポイント制度の創設です。この制度は、一定の条件を満たす住宅の新築やリフォームに対しポイントを付与するもので、新築で最大35万円、リフォームで最大30万円相当の商品と交換可能なポイントを付与します。
軽減税率制度の円滑な実施に向け、具体的な事例も含むQ&Aの追加、個別の相談対応など一層丁寧な対応による周知徹底、またレジ導入等への支援を行うことで準備を更に促進していきます。今後も、テレビ・一般紙等を活用した一般向け広報や事業者団体等を通じた働きかけの強化等に取り組んでいきます。
医療に係る消費税の問題については、消費税率引上げ分を診療報酬に反映させる配点方法を緻密化することにより、医療機関の種類毎の補てんのばらつきを是正することとしています。
また、医師の勤務時間短縮や地域医療提供体制の確保、高額医療機器の共同利用の推進など効率的な配置の促進といった観点から、医療用機器の特別償却制度について拡充・見直しを行った上で、適用期限を2年延長します。
Ⅲ デフレ脱却・経済再生、地方創生の推進
経済再生の大きな柱として、日本ではイノベーションの促進が大きな課題となっています。特に、民間の研究開発投資のGDP比は足元2%程度ですが、これを平成32年度までに3%に引き上げることが政府の目標として掲げられています。これを達成するために、研究開発税制の見直しを行います。
まず、オープンイノベーション型について、対象に研究開発型ベンチャーを含む民間企業への一定の委託研究を追加する等とともに、控除上限を法人税額の10%に引き上げます。また、研究開発型ベンチャーとの共同研究・委託研究の税額控除率を25%とします。対象となる民間委託研究は、基礎研究・応用研究における委託研究、工業化研究においては委託先の知的財産を活用するような高度な付加価値を生み出すものに限定します。
次に、総額型については、研究開発を行う一定のベンチャー企業の控除上限を法人税額の40%に引き上げるとともに、控除率カーブを見直し、税額控除率及び控除上限の上乗せ措置について、適用期限を2年延長します。
最後に、高水準型については、「試験研究費割合が10%超の場合の総額型の控除上限の上乗せ特例」と統合し、控除率を一定程度割増しする措置を加えた新たな特例に改組します。
続いて、個人事業者の事業承継税制についてご説明します。
現行の事業用の小規模宅地特例には、事業及び資産保有の継続要件がなく、事業継続への配慮という本来の政策目的に沿ったものとなっていないこと、個人事業者の債務には事業用・非事業用の区別がないため、事業用宅地の購入のために行った借入れに係る債務を、非事業用資産と相殺することなどにより、事業と無関係な資産にまで節税効果が及ぶこと、事業を承継しない他の相続人の税負担にまで軽減効果が及ぶため、制度趣旨や課税の公平性に欠けることという大きく三つの問題点があります。
これらを踏まえ、既存の事業用の小規模宅地特例との選択適用を前提に、10年間の時限措置として、新たな納税猶予制度である個人事業者の事業承継税制を創設します。事業用の宅地、建物、その他一定の減価償却資産について、課税価格の100%に対応する額を納税猶予し、事業用宅地の面積上限と事業用建物の床面積上限を設定します。また、法人の事業承継税制と同様、担保を提供し、猶予取消しの場合は猶予税額及び利子税を納付することとし、相続時・生前贈与時いずれにも適用できるものとします。さらに、個人事業者の事業継続を支援するという政策目的との整合性を確保するため、相続税の申告期限後、終身の事業・資産保有の継続要件を追加します。ただし、個人事業者の特性も考慮した緩和措置を合わせて設けます。また、債務控除を悪用した節税が行われないよう、被相続人に債務がある場合には、特定事業用資産の価額から、その債務の額を控除した額を猶予税額の計算の基礎とします。そして、猶予税額の計算については、後継者以外の相続人の相続税額に影響が生じない計算方法を採ることとします。
現行の事業用の小規模宅地特例についても見直しがあります。相続前3年以内に事業の用に供された宅地については、特例の対象から除外することとします。ただし、この宅地であっても、その宅地の上で事業の用に供されている償却資産の価額が、その宅地の相続時の価額の15%以上であれば、特例の適用対象とします。
ここからは、中小企業者等に関係する税制についてお話しします。
まず、中小企業者等の法人税率の特例の適用期限を2年延長します。次に、中小企業経営強化税制は、対象資産を明確化した上で適用期限を2年延長し、中小企業投資促進税制についても適用期限を2年延長します。また、商業・サービス業・農林水産業活性化税制については、収益力向上要件を追加した上で、適用期限を2年延長します。地域未来投資促進税制は、特に高い付加価値を創出し、地域経済への高い波及効果が期待される取組について主務大臣の確認を受けた場合に、機械装置等の特別償却率及び税額控除率を引き上げる等の見直しを行った上で、適用期限を2年延長します。
続いて、中小企業における災害に対する事前対策を支援するため、中小企業等経営強化法の改正を前提とする事業継続力強化計画に基づく防災・減災設備への投資について、20%の特別償却ができる措置を講じます。災害の関係でもう一つ、保険会社等に係る異常危険準備金制度の拡充・延長です。具体的には、火災保険等に係る特例積立率を5%から6%に引き上げた上で、特例の適用期限を3年延長します。
地域経済との関係では、特定所有者不明土地に係る長期譲渡所得の課税の特例を創設します。「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」に基づく地域福利増進事業の事業区域内の土地等について、確知所有者が所有する特定所有者不明土地等又はその他の事業区域内の土地等を、長期譲渡所得の課税の特例の対象とします。
次に、空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例の拡充です。現行制度では、被相続人が相続の直前まで対象家屋を居住の用に供していた場合に限り特例が適用できるところ、被相続人が対象家屋から転居し、相続の直前に老人ホーム等に入居していた場合も、一定の要件の下で適用対象とすることとします。その上で、適用期限を平成35年(2023年)12月31日まで4年延長します。
外国人旅行者向け消費税免税制度の見直しも行います。地域のイベント等における特産品等の外国旅行者への販売機会を増やし、外国人旅行消費額のより一層の拡大等を図るため、すでに輸出物品販売場の許可を受けた事業者が一定の要件を満たすことで、臨時の販売場を免税店とみなし、免税販売できることとする「臨時販売場制度」を創設します。
Ⅳ 車体課税
車体課税の改正についてご説明します。まずは、地方税である自動車税の恒久減税です。消費税率引上げ後に購入した新車から、小型自動車を中心に、自家用自動車に係る自動車税の税率を恒久的に引き下げます。
続いて、国税である自動車重量税のエコカー減税の見直しです。1回目車検時の軽減割合等を見直すとともに、2回目車検時の免税対象を電気自動車等や極めて燃費水準が高いハイブリッド車に重点化します。
自動車税の恒久減税により生じる地方税の減収のうち、地方税の見直しによる増収により確保できない分については、エコカー減税の見直し、自動車重量税の譲与割合の段階的引上げ、揮発油税から地方揮発油税への税源移譲により全額国費で補てんします。
Ⅴ 経済社会の構造変化等を踏まえた税制の検討
現在、老後の備え等に対する自助努力への支援措置として様々な措置があります。例えば、NISAや個人年金などは職域に関わらず利用できますが、財形住宅・年金貯蓄などは正規雇用労働者の従業員しか利用できません。また、企業年金を実施できている企業は一部であり、青天井で非課税拠出が認められる大企業従業員等と拠出限度が定められている中小企業従業員や自営業者等との間でアンバランスがあります。
主要国における私的年金に係る税制を見ると、例えばイギリス・カナダでは、企業年金・個人年金、事業者拠出・本人拠出を共通の枠で管理する仕組みが採用されており、こうした仕組みも参考に、より公平な制度の構築に向け、政府税調で検討が行われています。
平成25年度に創設された教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の新規契約数は、創設当初1年間と比べると、現在の利用状況は約80%減少しており、足元1年間では約1・5万件となっています。
結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置についても、創設当初1年間と比べると約95%減少しており、足元1年間では約200件となっています。この非課税措置の適用者は、同世代の中でも所得が高い傾向にあり、所得水準が高い者ほど高額の贈与を受けている傾向にあります。
また、教育資金については、趣味の習い事やレジャー用の免許取得などにも活用でき、贈与者死亡時の残高に相続税がかからず、相続税対策を目的とする節税的な利用が容易にできる仕組みとなっています。
これらの問題に対応するため、教育資金の一括贈与非課税措置の見直しを行います。贈与により取得した年の前年の受贈者の合計所得金額が1000万円を超える場合には適用できないこととし、23歳以上の者の教育資金の範囲については、学校等以外の者に支払われる費用で、教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講するために支払われるものなどに限定します。また、30歳到達時において、学校等に在学しているなどの場合は、その時点で残高があっても、贈与税を課税しないこととします。さらに、贈与者が亡くなった場合は、贈与者の相続開始前3年以内に行われた贈与について、贈与者の相続開始日において受贈者が23歳未満である場合、学校等に在学している場合、教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している場合のいずれかに該当する場合を除き、相続開始時におけるその残高を相続財産に加算することとします。現行、平成31年3月31日までの措置ですが、平成33年(2021年)3月31日まで、2年延長します。
結婚・子育て資金の一括贈与非課税措置についても、贈与により取得した年の前年の受贈者の合計所得金額が1000万円を超える場合には適用できないこととし、平成33年(2021年)3月31日まで、2年延長します。
続いては、民法に関連したお話です。平成30年6月に、成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする「民法の一部を改正する法律」が公布されました。税制上、年齢要件を20歳又は成年、未成年としている制度は、対象者の行為能力や管理能力に着目して要件を定めていることから、民法における成年年齢引下げに合わせて18歳に引き下げることとします。
また、平成30年7月に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が公布され、相続に関する規律が見直されたことに伴い、新たに創設された配偶者居住権や特別寄与料に対する課税など、相続税等について所要の改正を行います。
今後、連結納税制度についても見直しを検討していきます。連結納税制度の適用実態やグループ経営の実態を十分に把握した上で、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは維持しつつ、制度の簡素化や中立性・公平性の観点から見直しを行い、これにより企業がより効率的にグループ経営を行い、競争力を十分に発揮できる環境を整備していきたいと思います。
Ⅵ 経済活動の国際化・電子化への対応と租税回避・脱税の効果的な抑制
OECDにおいて、BEPSプロジェクトの中で、国際的な租税回避を防止するための取組を進めています。その中で、過大支払利子税制や移転価格税制の見直しを行います。
また、様々なIT企業が国境を越えた活動をしていますが、これまでの法人税は、日本に物理的な拠点があり、そこで発生している所得に対して課税するというのが国際課税のルールでしたが、インターネット上で例えば私が検索をしたデータを利用して、IT企業が広告を配信することで上げている収入、こういったものに対して課税できないかといったような議論がOECDを中心に行われています。今年は日本がG20の議長国になっていることもあり、この取組について日本が主導的な役割を担って議論を進め、平成32年(2020年)までには結論を得るべく取組が進められています。
Ⅶ 円滑・適正な納税のための環境整備
経済取引の多様化等に伴う納税環境の整備を行います。近年、仮想通貨取引やインターネットを通じた業務請負の普及など、経済取引の多様化・国際化が進展しています。こうした経済取引の健全な発展を図る観点からも、適正な課税を確保することが重要になるため、納税者が自主的に簡便・正確な申告等を行うことができる利便性の高い納税環境を整備するとともに、高額・悪質な無申告者等の情報を税務当局が照会するための仕組みを整備していきます。
以上、平成31年度税制改正について、主なところをご説明させていただきました。ご清聴ありがとうございました。
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